兜町カタリスト
番外編「櫻井英明の現場に行ってみた:第10回 セック」
「とんがった実績」
「社会の安全と発展のために」とテーマにリアルタイム技術を主軸にして展開しているセック(3741)。
リアルタイム技術とは、「時々刻々と変化する外界と密接な相互作用を持った、コンピュータシステムを開発する技術」のこと。
自然現象を相手にしたシステムを設計する、普遍的な技術ですが、同社はこれを1丁目1番地としてさまざまな開発を行っています。
(1)モバイルネットワーク
モバイルサービスを利用するためのアプリケーションや、モバイル機器の組込みソフトウェアを開発。
■開発実績
モバイルデバイス搭載機能開発(電子マネー、カメラ、家電連携など)
料理メニュー翻訳ARアプリ開発
外国語会話アプリVR適用
モバイル決済端末(NFC、クライアント機能、サーバ機能)
車載インフォテインメントソフトウェア
(2)インターネット
非接触IC搭載のソフトウェアと、IoT関連技術、クラウドシステムなどを開発。
■開発実績
非接触IC搭載ソフトウェア
屋内位置測位システム
スマート衣料IoTプラットフォーム開発
IoTデバイス利用システム開発
災害時統合情報システム
企業向けWebシステム/クラウドシステム構築
MR空気抵抗シミュレーション可視化
(3)社会基盤システム
交通、防衛、医療、官公庁向けなど社会公共性の高い分野のシステムを開発。
■開発実績
ITS(高度交通情報システム)路車間通信センターシステム
ロードサービス向けGPS緊急通報システム
自治体緊急医療支援システム
洪水予報・警報作成システム
太陽光発電マネジメントシステム
電力・炭素排出量モニタリングシステム
医薬品医療機器関連情報システム
(4)宇宙先端システム
科学衛星や惑星探査機など宇宙天文分野と、ロボットやAIなど先端分野のソフトウェアを開発。
■開発実績
機能安全対応RTミドルウェア「RTMSafety」(IEC 61508認証取得)
屋内自律移動ロボットソフトウェア「Rtino」
コンピュータビジョンソフトウェア「Rtrilo」
車両自動走行関連システム
科学衛星搭載エンベデッドシステム(『ようこう』『あすか』『すざく』『ひので』『ASNARO』)
惑星探査機搭載エンベデッドシステム(『はやぶさ2』『はやぶさ』『あかつき』)
国際宇宙ステーションきぼう日本実験棟関連システム(『MAXI』『SMILES』)
宇宙天気データベースWebシステム、宇宙天気予報運用サービス
天体望遠鏡制御システム(『すばる望遠鏡』)
文字にしてしまうといとも簡単ですが、これらの実績はたぶん大袈裟にいえば試行錯誤の連続不連続の延長線上。
血と涙と汗の結晶。
とんがってとんがってさらにとんがって完成に導かれたものに違いありません。
同社の業態は「開発」ですから世の中の企業がさまざまな新技術を展開する前の工程がメインです。
技術や製品が活字や映像になって人々に知れ渡るころには同社はその先を走っているというのが実態。
ですから秋山会長に「今後の自動運転は?」などと質問しても「もう見えた。次にいこう」というような返答がもどってくることも時々あります。
つまり技術を通して先を見据えているからこそ「次にいこう」になるのでしょう。
逆に今開発していることはまさに未来社会の前哨戦。
同社にとって今面白いことが未来の世界を喜ばせてくれるに違いありません。
秋山会長はこんなことも言われました。
「櫻井さん、当社はリアルタイム技術を核に拡大してきた大学発の企業みたいなもの。
1970年創業だからだからアップルよりもメタ(フェイスブック)よりも歴史の長い大学発ベンチャーです」。
だから用賀のオフィスの雰囲気も大学の工学部の研究室のような雰囲気。
「用賀の風景がサンフランシスコに見えてきた」は言い過ぎかもしれませんが…。
「開発用フロア大幅増」
ある夏の日に訪れたのは田園都市線用賀駅からすぐの場所にある同社本社。
今年4月にイノベーションを促進する環境を実現するために新オフィスがスタート。
開発用フロアを大幅に増やしたというお話でした。
広々とした新オフィスからの風景は見事。
オフィスも広々としていて、整然としてかなり近代的モチーフ。
個別に区切られた場所は遮音され、研究開発は一気に進む印象。
コンセプトは「共創」。
プレゼン、ペアワーク、チームビルディングなどに適応。
エリアごとに異なるコンセプトで設計されていました。
オープン・イノベーションエリアやフレキシブル・ワークスタイルエリアなどに分かれています。
それぞれの部屋の扉には「Saturn」「Jupiter」「Mars」「Venus」「Mercury」。
そして「Earth」などの文字。
新たな発想のために研究開発そしてディスカッションなどが行われそうでした。
「クライアントやパートナーを巻き込んだオープン・イノベーションの推進」が言葉だけでなく実践で表現された印象です。
「ロボットとMR」
ここで櫻井社長が登場して見せていただいたのは「自律移動型ロボット協働パッケージ「RTakt」(アールタクト)」。
2022年8月に発売開始されました。
「RTakt」は様々な種類の自律移動型ロボットを一括管理するためのソフトウェアとのこと。
飲食店や工場などを中心に、自律移動型ロボットの導入による人とロボットの協働が進みつつあります。
「RTakt」は、特定のメーカーやクラウドサービスに依存することなく、異なるメーカー・異なる用途の自律移動型ロボットを一括管理・運用できる環境を実現するそうです。
例えばA社の配膳ロボットを運用していた店舗にB社の配膳ロボットを追加したり、C社の搬送ロボットとD社の清掃ロボットを一括管理したりすることができます。
異なる場所にいるロボットを遠隔で監視・操作することも可能とのこと。
どのメーカー・用途のロボットも同じ操作手順で運用できますから、ロボットを運用する現場のスタッフに負担がかかりません。
「RTakt」は、誰もがロボットと協働できる環境を提供してくれるスグレモノでした。
「RTakt」の利用シーンは
(1)レストラン、カラオケルーム等での配膳、下膳
(2)工場内での資材配送
(3)施設内の点検、清掃、消毒
「足と目ができた。あとはアームができてくれればかなりのもの。
何ができるか楽しみ」。
櫻井社長がなんかものすごくうれしそうな顔で紹介してくれたのが印象的でした。
もう一つこの場所で体験できたのはMR(Mixed Reality)。
全く別の場所の存在を同時に複数で共有できるこれもスグレモノ。
ゴーグルをかけると目の前に異質の全く別の場所が登場してきます。
手に持った杖を動かすと画面も転換。
印象としては「透明人間のような存在として、ハリーポッターのように杖を動かすと場面が転換」。
二人で同じデジタルオブジェクトを共有することが可能でした。
因みに後日、立教池袋中学高等学校数理研究部のメンバーが同じ場所で同様の体験をしました。
JAXAとの共同研究では次世代可視化技術の可能性を検証。
あるいは遠隔地の拠点間で仮想的に3Dデータなどの情報を仮想的なく空間上で共有するために技術などの研究を推進しているそうです。
Mixed Reality(複合現実)はメタ・バースにも通じる近未来の存在。
その応用編ではきっとセックさんのリアルタイム技術も使われてくるに違いないと思いました。
そういえば昨年IRの時に櫻井社長がボソッとお話された「うちはメタ・バースのトップランナーなんだけど。
あまりそういう目では見られてない気がする」。
この一言が甦りました。
因みに…。
同社は東京都教育委員会と東京スポーツ文化館が主催する、中高生世代向けのAIプログラミング講座(2022年9月〜10月、対面およびオンライン開催)に昨年度に引き続き講師および企画・実施で協力しています。
この講座では、実際にプログラミングをしながらAIについて学び体験することができるそうです。
単に知識を得るだけでなく、中高生たちが好奇心を育み、深く探求する力を身に付ける機会とすることを目指しています。
「今後も若い世代のソフトウェア人材の育成に貢献してまいります」。
これが実はセックさんの本質ではないかとも思えました
「別のフロア」
別のフロアで展開されていたのは、同社が手掛けるさまざまな研究開発ルーム。
さまざまな秘密があるので、注意しながら見せていただいたのは「ロボットの研究チーム」の場所。
「ロボットにキャッチボールをさせる」をテーマに一心不乱に楽しみながら研究している様子でした。
お話していただいたのはロボットの研究開発担当者さん。
「入社以来ずっと遊んでいます」というコメントもありましたが、ロボットにキャッチボールをさせる姿は真剣そのもの。
「ロボットの調子が悪い時はうまくいかないんです」。
確かに何度か失敗。
でもあくまでもチャレンジ。
それにしても何も考えずに人間ができるキャッチボールでもロボットにやらせると緻密な計算や応用が必要なもの。
逆に人間のすごさにも気が付かされました。
そういえば、このロボットの研究開発担当者さんの髪の毛には緑色が混じっていて新鮮。
「時にはピンク一色の時もありますよ」。
と同僚さんは言っていました。
この姿が創造力やイノベーションの原点なのかも知れません。
「滅多に人が来る場所ではないんですけど」。
IRの担当者さんに案内されたのは以前一度だけ応接室で取材したことのある従来のオフィス。その時は受付に「はやぶさ」の模型が飾ってあったのが記憶に残っています。
会長室も社長室もなく皆同じ机に座って仕事をしていました。
「新しいオフィスの机だと西日が眩しいんです」
櫻井社長が言われました。
その櫻井社長がここ数年よくお話されるのは「宇宙のデブリ問題」
これについては8月にアストロスケールとセック、ADRAS-Jに関するマーケティングパートナーシップを締結」。
そんなプレス発表がありました。
「セックによるアストロスケールのADRAS-Jプロジェクトへの支援を通じて、宇宙の持続可能性(スペースサステナビリティ)の実現を共に目指していくものです。
アストロスケールは、世界初の大型デブリ除去等の技術実証を目指す、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証フェーズIの契約相手方として選定、契約締結され、ADRAS-Jを開発しています。
ADRAS-Jは2022年度内にRocket Labのロケット「Electron(エレクトロン)」による打上げを予定。
軌道投入後、非協力物体である日本のロケット上段への接近・近傍運用を実証し、長期にわたり放置されたデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行います」。
壮大な計画も着実に進んでいる印象です。
「Update the World」
セックにはいろいろな言葉がありました。
「賢者でなくていい」。
「世界を変えるのはいつも変わり者だ」。
「リアルタイム技術。聞いたことない?当然です。
この技術を極めているのは日本で私たちだけですから」。
「壊れても動き続けるシステムをつくれ。
宇宙まで修理にいけないだろ」。
「エンジニアはマグロと同じ。泳いでないと死んでしまうから」。
「セックにギブアップはない」。
輝く目をした研究開発者さんたちのまなざしに囲まれて用賀を後にしました。
(以上)
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