兜町カタリスト
番外編「櫻井英明の現場に行ってみた:第4回 SEED」
「探索のはじまり」
初秋の気配の漂う、ある晴れた一日。
東京駅からJRに約1時間乗って埼玉県のJR北鴻巣駅からコンタクトレンズ大手のシード(7743)の鴻巣研究所に向かいました。
訪れるのは約6年ぶり。
当時は広大な敷地がまだ空いていましたが驚いたのは研究棟・倉庫棟などでだいぶ埋まってきていたこと。
企業の成長そのままの姿が感じられました。
使い捨てコンタクトレンズを主力とする同社。
過去大量生産に対応した設備増強を進めてきました。
その中核のシード鴻巣研究所は、大量生産と多品種少量生産を両立する3つの生産棟を持つ、コンタクトレンズ製造枚数では国内最大を誇る工場(シードさん調べ)。
2020年11月には倉庫棟が本格稼働し効率的な生産体制を実現しています。
これらが満載されている工場への最初の一歩は入り口でタクシーを降りて守衛さんに許可をもらうこと。
そして大きな工場棟まで連れて行ってもらいましたがその道のりの長いこと。
沿道のサクラ並木は春はさぞ綺麗だろうなとかアジサイもいいな、などと考える余裕があるほどの長さと美しさでした。
入り口にあったのは前身の「東京コンタクトレンズ研究所」当時のコンタクトレンズ。
あるいは手動旋盤や手動刻印機などの数々。
あるいは「鴻巣研究所」全体の模型。
同社の60年を超える歴史の数々がさりげなく飾ってありました。
2階の応接室に通されると同社経営企画部の方々。
そして浦壁昌広社長もおられました。
西武ライオンズの選手サイン入りのユニフォームが飾られていたので伺ってみたところ、地域貢献の意味も含めて応援支援をしているとのこと。
サッカーのユニフォームもありました。
最初から同社の「SDGs」の一端を拝見したような格好です。
浦壁社長の言葉。
「ダイバーシティと多様な働き方の実現に向け、CSR(企業の社会的責任)の充実を目指し、複合型保育施設の開設、在宅勤務の導入。コンタクトレズの空ケースを回収する「BLUE SEED PROJECT」や子どもを対象としたイベント等を新たな取組みを多数展開してきました。
今後はカーボンニュートラルを目指し、循環型事業システムの構築にも取り組んでまいります」。
言葉だけではなく、現実に遭遇できた瞬間でした。
浦壁社長から促されたのは「今日は私がご案内します。まずは上着を着ていただいて帽子をかぶっていただきます」。
工場の風景でよく見る格好になって、シード鴻巣研究所の探索がはじまりました。
「優れもののロボット」
工場に行く前に行う作法はまだまだありました。
まずは45秒間、ごみを取るペーペーで自分の洋服をきれいにすること。
次は30秒間の手洗い、そして足の清掃。
風の吹く部屋に入っての細かいチリの除去。
コンタクトレンズという微細なものを作っているのですから当然の作法です。
「ここでも半導体や医薬品などの工場などのようにさらに完全にきれいにしなければ入れない場所もありますよ」とのお話も伺いました。
向かったのはコンタクトレンズの「両面モールド製法」でコンタクトレンズを作っている工場。
ほとんどロボットが活躍していて人間は管理をしているという印象でした。
まずは「射出成型」。
これはレンズを作るためのプラスチックの型つくり。
凸凹の2つの金型を合わせて瞬間にプラスチック樹脂を注入。
フロントとベースの2つの型をつくります。
この型でレンズの度数やカーブなどが決まるという大切な工程でした。
24時間黙々と動くロボット。
そして感じる静謐さ。
ロボットもきっと製品に対するプライドを持っているのだろうと思いました。
次は「分注・篏合(かんごう)」。
フロントカーブ型にコンタクトレンズの原料を注入。
そこへベースカーブを重ね合わせます。
この2つの型の隙間にできた空間がコンタクトレンズの形状になるそうです。
昔はおそらく職人技だったにちがいない精緻な技術。
証券業界の人間からは計り知れない分野ですがこれらのワザを間違いなく遂行するロボットはすごいものでした。
次が「重合・離型」。
型に入れたままのレンズに数時間ほど熱を加えて化学反応を起こします。
液状だった素材がしっかり固まったら、型からはずします。
ここで完成かと思ったらまだ最後の工程がありました。
「膨潤(ぼうじゅん)・パッキング・滅菌・箱詰め」。
固いレンズに水を含ませて、弾力のあるソフトレンズへの仕上げです。
1枚ずつパックしてから滅菌処理。
厳重な検査工程を経て、パックを荷詰めします。
店頭でよく見かけるあの四角いパッケージがいくつも並んだ状態。
そしてそれらがダンボール箱に詰められていきます。
ここまでくると「いよいよ製品の完成です」と叫びたいような気持になります。
興味深かったのは「水」に対するこだわり。
純水が求められますから、当然「水」は大切な存在。
製造部分だけでなく、その前工程の「水」の部分からすべてが始まっているのです。
また、ロボットが主役になっているように見えますが、その動作しているロボットを現場の創意工夫で作り上げていったはずの同社の先輩たちの技術への思い。
これがなければ工場はうまい具合に機能してくれなかったような気がしました。
同社の省人化・効率化への展開はまだまだ続くことでしょう。
コンタクトレンズは完全にオートメーションですごいシロモノ。
出来てくるものは軽いコンタクトレンズ。
しかし・・・。
昔見たNKK(現JFE)扇島製鉄所の鉄の塊に感じたような日本経済の強さとダイナミズムを感じました。
「物流だってスゴい」
でもまだまだ物語は続きます。
段ボ―ルに詰められて完成品はそこから今度は倉庫等へ送られます。
「出来立てだよ」という声が聞こえてきそうな印象です。
彼ら彼女らを待ち受ける倉庫は昨年11月に本格稼働。
倉庫内の搬送にロボットを使うなど、自動化を徹底して作業効率を高めています。
背景はアジアや欧州でコンタクトレンズの需要が拡大。
工場と連携した在庫管理の能力を高めて安定供給につなげるという意図だそうです。
製品倉庫は製造棟に隣接。
レンズ32枚入りの箱を約140万箱格納できます。
レンズの種類や出荷時期ごとにパッケージを自動識別。
そして棚に格納するシステムです。
出荷分の箱をパレットに載せる作業はロボット。
従来は出し入れも手作業中心で効率が悪かったそうですから新たな進歩です。
鴻巣では月約4750万枚のコンタクトレンズを生産しているそうですから絶対に必要な機能ですね。
製品を分別して縦横上下に動いて格納する風景はそれこそ物流倉庫のような印象。
コンタクトレンズの待機基地が鴻巣にありました。
作るだけでなく少しでも簡易に販売店やお客様に届くような心配りはきっと現場からの声に起因するのでしょう。
同社の生産戦略のキーワードは「技術・生産性・効率品質・教育」。
(1)不良品ゼロを目指して
(2)歩留・機械稼働率・生産性の向上による原価低減
(3)多品種少量生産の拡大、実現のための効率的な生産体制の構築
(4)国内仕様品と海外仕様品の効率的な生産
(5)「サプライチェーンの安定した確保
(6)過去のQC活動も含めた改善の実施(有効な改善の定着と継続)
(7)徹底した衛生管理と安全操業
(8)従業員モラル向上を含めた教育訓練の実施
これが日本のモノつくりの現場の常識の最先端。
東京株式市場で明滅する株価の裏側にはこういう目に見えない不断の努力があるということを忘れてはいけません。
「ふくろうの森」
鴻巣研究所の隣接地に、鴻巣市民と同社従業員の「育児と仕事の両立」を支援するために同社が建設し2018年4月に開園したのが保育・児童施設「ふくろうの森」。
全国的にも珍しい認可保育園、企業主導型保育園、放課後児童クラブを併せ持った、乳児期(0歳児)から学童期(小学6年生)までの保育・児童施設です。
(認可保育園・放課後児童クラブは社会福祉法人おひさま会が設置・運営、企業主導型保育園はシードが設置し、おひさま会に運営委託)。
ふくろうの森保育園・シード保育園・学童保育ふくろうの森では、子どもたちの望ましい未来を作り出す力を培うために、養護と教育が一体となった「総合的な保育」 を行っているとのお話。
子どもがワクワクし、チャレンジしたくなるような室内・園庭環境。
主体性、身体性、社会性が育つようにデザインされた物的・人的環境を提供。
調理場を一段低くし、子ども目線で調理の様子を伺えます。
食に興味を持ち、体験し、楽しみながら食習慣を学びます。
多様な価値観の中で、お互いを認め合える集団創り。
違うことを認め、相手を思いやる心を育てていきます。
昨年は大野裕埼玉県知事も視察に訪れたとのこと。
「鴻巣研究所の人員は多くの埼玉県在住の方によって構成されています。
埼玉県がより住みやすい土地となることで、より良い人材を確保しやすくなります」と伝えたそうです。
地域地元貢献。
働きかた改革。
これからの日本企業が求めていかなくてはならないことが鴻巣にはたくさんありました。
ふくろうの森で感じたのはその広さ。
そして子供たちが自然と共生でき、自由に動ける場所。
「日曜日にもココに来たいという子供さんたちもおられるでしょう」と伺ったら「そうなんです。開いているときもありますから、よく来ていますよ」と園長さん。
案内してくれた鴻巣工場の総務の女性はもともと本郷3丁目の本社で勤務されていたそうですが今はこの仕事にも精通されているように見受けられました。
時には上級生向けに理科教室なども行っているそうです。
園長さんは「健やかな成長のためには、こどもの時が大切なんです」とおっしゃってましたが未来のSEEDファンはきっと増えていくことでしょう。
「プライド」
「2022年3月期につきましては、外部環境に流されずに反転攻勢の期としていく所存です。
コロナ禍ではデジタルデバイスに触れる機会が増え、目にとって過酷な環境となり、近視や遠視の矯正以外にも、コンタクトレンズに対する需要の高まりを感じています」と
と浦壁昌広社長
「61年目からの新たな挑戦」の到来は地に足のついた展開をしているように思えます。
キーワードは「日本のシードから世界のSEEDへ。
より多くのお客様の『見える』をサポートする。
『Made in NipponとJapan Quality』のプライドを通じて 安全で高品質な製品とサービスを提供することを追求」。
「SEED♪コンタクトレンズ♪」の拡大は日本企業のダイナミズムを継続してさらに続くようです。
「後日談。後日譚」
鴻巣研究所から上信越新幹線が見えたので伺ってみたところ「こちらからあちらは見えますが、あちらからこちらは見えますかね」。
翌日たまたま所用で上信越新幹線に乗って左側のマド側の席に座っていたところ・・・。
大宮駅を過ぎて数分後。
見えました。
そして写真にもばっちり取れました。
これからあちら方面の出張の際はいつも見つめていきたいと思います。
(以上)
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