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番外編「櫻井英明の現場に行ってみた:第1回 株式会社ソード」

2021/05/27



株式の世界に長年棲息していて感じるのは「市場は現場の集大成」ということ。
決算短信という紙きれの数字や罫線というグラフみたいな紙芝居を通じて市場関係者はアアでもないコウでもないと主張します。
でも実はそんなことは企業の現場の方々にとっては些細なこと。
現場にこそ真実がある筈です。
「企業が何を中核にしてどちらを向いているか」。
伝説のファンドマネージャーとして畏敬するピーター・リンチ氏も言っています。
「クレヨンで説明できない投資アイディアでは投資をするな」。
「調査なしで投資することは手札を見ないでポーカーをするのと同じだ」。
目で見て耳で聞いて手で触って足で動き回って口で確認する。
こういう動作こそが実は株式投資では一番大切なことでしょう。
「現場を見ずして企業を語るなかれ」。
あるいは「現場に行かずして株価を予測するなかれ」。
シンプルですが永遠のテーマです。
ピーター・リンチ氏の別の言葉。
「ほとんどの人は株式投資よりも電子レンジを買うことのほうにより多くの時間をかける」。
「会社に投資するのであって株価に投資するのではない」。
そして「企業はダイナミックに動き、見通しも変わる。
内容を知らなくて持っていてよい株など一つもない」。
それぞれの名言を思い出して帰着するのは「現場こそすべて。そして現場の人間の声に耳を傾ける」。
これ以上の投資の勉強はないでしょう。
だから・・・。
企業の現場で現場の人たちの声に耳を傾け、作られている製品の密かなささやきを聞こうとする努力を始めました。
題して「櫻井英明の現場に行ってみた」。
株式劇場の序章の始まりです。

第1回:株式会社ソード
第1回は千葉県の新検見川に出かけました。
兜町から電車で約1時間。
昨年末に東証1部上場のPCIHD(3918)の傘下になったソードさん。
創業50年を超え、日本で一番最初にパソコンを作った会社として小学館の辞典でも紹介されている会社。
春の晴れた日に本社工場に伺った印象を読んでいただければ幸いです。

ソード社は1970年にベンチャー企業として創業。
2020年4月に50年を迎えた老舗企業です。
1985年には東芝グループの一員となり一貫してパソコン関連事業を中核に事業を展開。
現在は国内トップクラスの組込みパソコンメーカーです。
「お客様の機能の一部を担う。
お客様の実質的な開発部門となる。
ソフトとハードを融合したソリューションを提供していく」。
まず最初に荒木均社長は語られました。
因みに社名の由来は「SOFT(ソフトウェア)+HARD(ハードウェア)」。
SOとRDでソードとなったそうです。


「出船入船・・・まずは物流の動きから」
最初に案内していただいたのは部品の納入と製品の搬出をつかさどる場所。
パソコンを組み立てる企業ですから、どちらも重要な仕事です。
「午前中は納品、午後は出来上がった製品の発送」。
まさに出船入船のような恰好でトラックが次々とやってきていました。
株式市場の観点からは、そんなことは当たり前の世界のようで考えることは滅多にありません。
しかし現実は「部品がそろってなければ製品は完成しません」。
必要な部品がそろって初めて工場は機能するのです。
この当たり前のことを、部品の過不足なく行っていくためには、この部署が必要不可欠ということはよくわかりました。
目にしたのは多くのパレットに積まれた部品と製品群。
納入の際に品質や個数をチェック。
搬出以前に何度も検査を行い、納入先も間違いがないように確認する作業。
この作業こそが華やかではありませんが、実は企業の礎ということに気が付かされました。
また、その先にあるのは生産計画や生産管理の世界。
同社ではおおむね4カ月程度の作業票を作成して部品の発注や納品を計画しているとの話。
そしてその延長線に存在している「在庫管理」の世界。
大半はデータ処理で行われていましたが、究極の最後は「人間の世界」。
熟練ワザは派手ではないですが、実は大きな財産でしょう。
実はココが日本企業の強さの源泉であるということは頭ではわかっていても目の当たりにするとやはり「スゴイ」ことでした。
そして・・・。
多くのパレットに積まれたダンボール。
木材のパレットを何度も使用している姿勢は、それこそSDGsの世界。
今始まったことではなく50年の歴史の中で培われた「もったいない」の精神は脈々と継承されていました。


「日本経済の縮図」
搬入されてくる部品が入った段ボ―ルを見ていると海外からのものも多く見受けられました。
中国などから部品を購入し、パソコンなどの製品を組み立て、そして様々なクライアントに納入するシステム。
これを見たときに感じたのは「日本経済のモノつくりの強さ」。
部品を製造できる海外メーカーなら製品を作ることは可能かもしれません。
しかし最終製品を作る強さにおいて同社の動きをから感じられるのはやはり「能力の高さ」。
AIも出てきました。
データ処理もロボットも登場しました。
それでも、この連綿と続いてきた技術の継承はおそらく誰もマネできないこと。
翌日の製品組み立てに必要な部品をまとめておくこともこの部署の作業。
これがあるからこそ円滑な組み立てが出来るのだと痛感しました。
あえてこういう部分をデフォルメする日本企業は少ないですが、それでも「モノつくり」の現場の強さを株式市場は忘れてはいけないでしょう。


「多能工」
技術の熟練に対しての濃度も同社は高いように思いました。
流れ作業でただ作業をしている訳ではなく、それぞれの方々が技術の熟練を目指しての切磋琢磨。
組み立て工場に入るところに張り出された紙に記してあったのは各人が対応できる作業と練度のレベル。
数か所の作業が全部赤く塗られれば最高級とのことでしたが、半分だけの人、1か所だけ黄色く塗られた人。
全部の作業は真っ赤に塗られればいわゆる多能工の世界。
どんな作業もできることになります。
いつでも何でも出来るということはパソコンでも高性能の精密機器でも何でも対応できるということ。
最初は設計指図書を見ながら組み立てているそうですが、そのうちにチェック項目をチェックするだけの作業。
とはいえ、このチェック項目も数多く、相当複雑なシロモノ。
作業が終了するたびに小さな印鑑を押して確認する世界。
こういう作業の練度が大手メーカ―さんの製造銘板を許されるような高品質につながっているのでしょう。
たとえばねじ締めにしてもソフトなタッチでジャストに締めるワザ。
傍で見ていると、まさに神業でした。


「ねじ」
そのねじも製品ごと部分ごとに必要な数を前もって手当てしての作業。
こうすることによって今組み立てている製品の分だけ小分けされた箱に入れたねじの過不足が作業の間違いを気が付かせてくれます。
我々金融市場育ちの人間にとっては、こういう物理的チェックは見慣れないこと。
それでも製造現場では当たり前のこと。
小さな注意が大きな不良を防いでくれていました
実は大きな注意が小さく見えただけなのかも知れません。


「けん玉大会」
組み立て現場の入り口に張られていたのが「第2回けん玉大会・ソード1グランプリ」のポスター。
たまたま休憩時間だったのでそこを通りかかった女性の社員さんがVサインをされました。
「え、優勝したんですか」。
と伺ったところ「2位でした」。
嬉しそうな顔で語ってくれました。
一つの間違いも許されない製造現場での作業を離れての笑顔。
会社そのものがフレンドリーな印象となりました。
付け加えれば玄関を入ってから、どの現場に行っても「おはようございます」のあいさつ。
そしてフレンドリーな解説。
加えて、さりげなく見せていただいた技術。
株式評論家だとか兜町カタリストだとか言っていても到底あのスキルにはかないません。
たぶん、ケン玉でも予選を通過することも不可能でしょう。

「人の心のこもった製造ライン」
黙々と作業を続けている先にあったのは出来上がった製品群。
1日に同じものが何個も作られる部署もあれば、1個づつ違う製品が作られている部署もありました。
組み立て中にチェックし、完成後にチェックし、最終出荷前にチェック。
最終的にはコンピュータなので、1番の通電検査も行われていました。
製造ラインを見ていて感じたこと。
「無機質なコンピュータだけど、製品一つ一つに作り手の心とプライドが込められている」。
製品群から聞こえてきたのはこんなささやきでした。
「僕たちは今生まれたばかり。
沢山の愛情を注がれて、注意深く育てられたんだよ。
これからみんなでいろいろな場所に行って医療現場や生産設備、フォトプリンターなどでクライアントさんの役に立つんだ」。
おそらくこの風景は日本企業の多くの製造現場で見られることでしょう。
そして日本企業の多くの製品がささやいていることでしょう。
だからこそ組み立てのスタッフさんは間違いを起こすことなく正確に製品を創り出しているんだと思います。
「思いのこもった製品群」のささやきはとても大切なささやきでした。

見学終了後に荒木社長の改めて伺いました。
「当社の強みはたくさんあります。

(1)最小クラスのパソコンメーカー。
一つのビルに集まっていますから受注も製造も故障修理もワンストップで可能です。

(2)小回り
長い間東芝グループ傘下でしたから高い品質を実現しています。
そして小ロットの受注にも対応できます。

(3)最適化
お客様のニーズに沿って機器を組み立て、組み換えチューニングすることが可能です。

データコントロールや保守修理メンテナンスも当社のフィールドになります。
この先に見据えているのはエッジ・マーケット。
モーターコントロールなども視野。
当然、自動運転、ローカル5G、AIもフィールド。
ロボット、建機、医療、農業など当社のフィールドはますます拡大していくでしょう。
その基盤は培った製品への信頼。
これからさらに成長していきます」。

PCIHDさんとの組み合わせはきっと素晴らしいもののなると確信しました。
「会社は行ってみないとわからない」を感じさせてくれた千葉・新検見川への「少し旅」でした。

(以上)

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