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No.3010「釜どろ」

石川五右衛門が京都四条河原で釜ゆでの刑に処せられた。
五右衛門の子分のそのまた子分が、
その恨みを晴らすため大釜だけを盗み出した。
とりわけ困ったのが豆腐屋さんで、仕事に差し障りが有った。
「婆さん、仲間内でもこの話しは出たが、解決策は無かった。
それで、夜起きていて見張ったが、釜を盗まれた。
で、新しい釜を入れたが、それも盗まれた。
釜ばっかり買っていたら身上潰してしまう。今晩は寝ちゃうよ」。
「お爺さんが寝ていて、泥棒が入ってきたらどうするんですか?」。
「だから今晩は釜の中で寝てやろうかと思ってな。
泥棒が釜を動かしたら地震だと思って目を覚ましたら、婆さんが枕元に置いてある金だらいを叩いて
『泥棒~』と叫んでくれれば良い」。
「はい、分かりました」。
「釜に入るよ。婆さん、蓋を閉めてくんな。皆閉めないで少し開けておいてくれ」。
「爺さん、私は寝ますよ」。
「良いよ。明日の朝、お釜に火を着けるときは、俺を出してからにしておくれ。
水を張るときもそうだぞ」。
「それだけですか」、「はい、おやすみ」。
爺さんは釜の中で一杯ってグッスリと寝込んでしまった。
戸締まりは厳重にしていたが、泥棒がやってきて大きな釜を盗み出した。
「兄貴、今日の釜は重いですね」。
「明日の仕込みにと豆が入っているんじゃないか」。
「月が出てますよ。『月夜に釜を抜く』とはこのことですか」
「グゥグゥ(とイビキが聞こえる)」、
「黙っていろと言ったら、寝ちまった。オイ、釜担いで寝る奴があるか」、
「イビキなんてかいていませんよ。大きな目を開いています」、
「イビキが聞こえたぞ」。「気のせいでしょ」。
「婆さん、婆さん」、
「釜担いで『婆さん』って言うなよ」、
「兄貴、俺は呼ばないよ。俺には婆さんが居ないよ」、
「気のせいかな。気のせいだ、気のせいだ、ヨイショヨイショ」。
「婆さん、水一杯くれ!」と、大声で怒鳴った。
「釜が化けた」と、泥棒はそのまま逃げ出した。
「婆さん、地震だよ。
速く逃げなくちゃ~ダメだよ。
こんなグルグル回る地震も珍しい。
速く逃げな。どうなっているんだ。
ありゃ、空一面星だらけだ。
しまった、今夜は家を盗まれた」。
相場でも勘違いが時には役に立つこともある。